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801魂の修行中。
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気を取り直して。

キレイだとは言いにくい部屋だったけど、正君は俺を歓迎する意思はあったようでチラシ紙を切ってワッカに繋げた飾りが電気の紐から3方向に進んでいる。そうそう幼稚園とかでやるあれね。
そこ気を使うなら、部屋の掃除は出来なかったものかと思ったけど、彼の気持ちは受け取っておくことにした。

今年の誕生日は翌日にあっちのライブがあるもんで、15日夜に決行されることになった今日。そこまでしてとも思いつつ、やはり祝われるのって悪くない。ケーキはさっき火を消したけど、ご飯はどうするつもりなんだろう。外に食べに行っても別に良かったけど、全くもって外出する気の無さそうな正君の部屋着にちょっとがっかりした。俺も部屋では大概だけど、いやむしろこの人のこういう格好ってそりゃそれで新しいかも。
あ、れ…エプロンして…もしやあれか手料理とかいうあれか。外食が多い仕事柄、手料理ってだけでありがたいかも…どっかのインタビューで甘いもの作れるとはあったけどでも正君そんなに料理できなかったような?記憶がごっちゃになってきて、そこまで長い間、お互い手料理振る舞いなんてものをやっていなかったことに気づく。やる気になれば出来るんだけどなかなかねぇ、と言い訳をして、キッチンに向かう正君の後ろをひょいひょいついていった。
大きな鍋がある。
「カレー?」
「シチューだよ」
初めてシチュー作ったけど、カレーと同じで最後ルーが違うだけなんだねなんて、なんだかそんなやり取りすら照れたりする俺はまだまだ純情派なわけね。パン焼いたり手伝おうか?と声をかけたら、ご飯だからいいよと断られた。
ご は ん … ?


座っててと言われたので、少し片付けられるものを片付けて(洋服のタグとか、ちょっとゴミ箱に入れればいいものがたくさんあった)シチューが置けるスペースを作る。ふと気づいて鎮座したままのケーキのローソクを抜いて箱に戻し、冷蔵庫入れようとすれば、意外にも満タン冷蔵庫。正君も久しぶりに料理した+今回のシチューのため、というのが目に見えて分かる具材たちに、少し暖かくなる。
「冬だからどこか寒い場所に置いておけばいいじゃんトイレとか」
心が寒くなる意見には返事を返さず、玄関近くに置いた。トイレはない人として。


シチューは、丼に乗ってやってきた。
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ピンポーーン。

ぬるくなったコーヒーを飲んだら、なんだか胃の中から冷えてきた。手も一向に温まらない。かじかむ手で呼び鈴を再び鳴らす。

ピンポーーーーーン。

うっそでしょまじ信じらんねえこの寒さの中俺を放置する気なのあの人はこれで死んだらどう責任取ってくれるのああどうしよう。多分わずか1分も経ってないのに寒さでおかしくなりそうで、とりあえず近くのコンビニに避難しようと背を向けた瞬間、家の中からまさに「どんがらがっしゃん!」という音がした。在宅だけは確認できたので、もう一度呼び鈴を鳴らすと、呼応するかのようにもう一度大きな音が響く。近所迷惑だよ長谷川さん…何大掃除するの引越し作業でもしてるの。
それから更に1分くらいして、ようやくドアが開いた。
「おまたせ」
待った待ったよと、中にようやく通してもらった。玄関は寒い。いち早く暖房の前で暖を取りたいと、家主を押して部屋へ…と思ったら居間の電気が消えている。え、何長谷川さん寝てたわけ、と言うといいから入ってといつのまにか後ろに控えた彼に背を押されて入る。

ハッピバースデー トゥーユー♪

ちょっと高い鼻から抜ける声で後ろからひとり歌を歌ってくれてああもしやこれはと思うと、部屋の真中には小さなホールケーキに細くて長かっただろうろうそくがささって煌々としていた。律儀に全部歌い終わる頃にはわずか1.5cmになったろうそく。
ささっ吹き消して中ちゃん、と促されて火を消、そうと思ったら足元に落ちていた何かにつまずく。危うくケーキに顔面キスかましてパイ投げ状態になるところだった。体勢を崩したのでそのまま膝をつくと、少しゲル状のものに触ったがこの際気にしないことにする。
早めにすべきは火を消すことだ。
ふうっと8本のろうそく(こういうところ律儀でどうかと思う)を消すと、ぱちぱちとたった一人から拍手を貰った。寒さと部屋の汚さに邪魔されそうだけど、こういうイベントや演出が好きな彼らしかった。

ろうそくの火が消えて真っ暗になった部屋で、お礼を言おうと振り向くが彼はそこにはいない。代わりに寝室からまたしてもドッカンドッカン音がする。なんなの、もうちょっと雰囲気とかロマンチックとかそういうもの、大事にしましょうよ…。
ようやく目が慣れてきて、大きな包みを抱えた長谷川さんが見える。ああ寝室にプレゼントがあったわけねていうか寝室くらい電気つけて探したらよかったじゃない。

「はーいなかちゃんお誕生日おめでとー!」

まるで小さい子のように、プレゼントを前で抱えて本人が見え隠れする様にかわいいと思っちゃうあたりもう俺も大概なんだと思う。はいはいありがとー、と受け取ろうとすると前が見えない正が転んだ。とっさに受け止めると、プレゼントがクッションになってふたりもつれこむように倒れた。足元にはケーキを入れてあったと思われる箱。単純すぎる。

思ったより近かった顔にキスをすると、嬉しそうに笑ってプレゼントを差し出してきた。大きくて柔らかい感じが、包みの上からでも分かる。
「なかちゃん、ソファに置くクッション欲しがってたでしょ?」
珍しく欲しいものをくれたのねと喜んで開けた。


お寺でしか見たことのないような、高そうな
 座 布 団 が2枚包まれていました。


…NO!!!! 

マンションの自動ドアが開くと、寒いなんてものじゃない刺すような風が服と肌の間をすり抜ける。思わずコートの襟に亀のように首を縮めながら、何だこんなの天気予報で言ってなかったじゃないよと口を開けずに喋った。年末年始は帰らなかったけど、実家の方は酷いことになっているんだろうと冬は正直あまり行きたくない遠い阿寒湖を思った。

知らないから言えるのだろうが、あの人この間「なかちゃんの実家に冬行きたい」とかばかなことを言っていた。いつかふたりで行きたいね、なんて歌えないわよ俺。あのバンドの人たち北海道出身だけど確か函館…阿寒湖とは寒さも雪も違うし。慣れてない彼も、昔は慣れていた俺も、風邪ひくのが目に見えている。
ツアーでもまた何故か冬に北海道になっちゃったけれど、どうせなら夏に涼みに行く方が北海道は良いと思うわ俺。ツアー後ちょっと実家に顔出そうと思ったけど東京でもこの寒さだと思うと、げんなりする。やめよっかな…。


早くもくじけそうになる心を叱咤して、前へと足を踏み出した。歩き出したって寒いものは寒い。家から数十メートルのコンビニに早くも避難した。少しでも暖を取るように缶コーヒー“あったか~い”を、顔やら手につけてぬくもりを奪う。どうして車にしなかったのか後悔したものの、酒が呑めなくなるのは嫌だしそれで帰れなくなるのも嫌だった。明日の仕事に影響する。
普段徒歩で15分の距離が、恐ろしく遠く感じた。
頑張れナカヤマ踏ん張れナカヤマと、自分を応援しながら進み、見慣れたマンションにようやく到着した。エレベーターの暖かさとともに、飲んでないのに冷えた缶コーヒーを開けて、ぬるさを味わう。このミルクコーヒー、いまいち。


ああ神様、どうかあの人が部屋を片付けて暖房で暖めてくれますように!

「明、今年の誕生日…」

年始早々ツアー中ふと思い出し、移動の新幹線が隣席だったのでそう声をかけると
あからさまに気まずい顔をした。
ちょうど日程にはライブがなかったはずで、何かあったかと言葉途中で考えると
思いついて、こっちまで気まずくなった。
前日ならまだしも、誕生日翌日にライブじゃあご飯食べに行っても中途半端だし
その後だって何をするでもなく解散なのは目に見えていた。

「ごめんやっぱいいや」
話途中で申し訳なく思ったが、それがお互いのためで
本職に影響を出さずにやっている彼の活動に口を挟みたくはなかった。
ちょっとだけ気まずくなった新幹線は、席が埋まっている割には驚く程静かで
授業中かと皮肉が出そうだった。
トイレにでも逃げようと、通路側だったのをいいことにテーブルを上げて
席を立とうとすると、肘掛にあった腕を取られた。

「ただしくん、

 ライブ来てよ」

耳元で小さく言われたって揺るがないよ俺は。
別に非難してるわけじゃないけどイヤだよ、そこは俺が入るところじゃないのは分かってるもん。

「打上げ出てよ」

だからやだってば。そんな指を絡められたって。


「その後2人だけで祝って」

小さく囁いていた口が耳に押し付けられて、
思わずそこだけ頷いてしまった。
どうせならケーキでも焼いて待ってるよと言ったら、
丁重にお断りされましたなんで!

何だかんだで毎年誕生日にライブが入っていた俺は、久しぶりのオフ誕生日に
少し浮かれていた。のに。

マメな性格の明だから、前日から泊まりに来ちゃったりするかななんて思っていたら、その日は飲み会があるからゴメンと言われた。
俺を優先させないわけですかとは思ったけど、何年もの付き合いで当日なら兎も角前日に来ない恋人を責める自分なんてお寒い気がして、しょうがないと納得した。当日はちゃんとお祝いしますから、と笑った明の顔の口元を見て、もうこの顔を見つづけて何年かと思った。変わらない関係の自分も彼も、相当気が長いのか。何につけても不安に思っていた頃とも違って「夫婦になると情になる」状態の最近は大概のことが許せるようになった、なんてまた寒いことを考えるのはまた年を取るからだ。ちょうど3ヶ月離れてるんだから、真ん中で12月16日に一緒に祝ったことがあったなあ。2年くらい前のような気がするが、もうちょっと考えたら5年は前のような気がした。
一人の部屋で再生していたCDが止まって、ふと静寂が訪れる。
気を使ってくれたのか、一緒に夕飯を食べに行った友人はこの後予定あるんだとかで22時頃早々に退散して下さった。普段夜中に飲んでいることが多い自分は、あいてしまったこんな時間に何をしたものかと考え、少し飲み足りなかったので
コンビニに寄った。他より50円は高いビールを片手に、ふとデザートコーナーに目が止まり、明日また明が買ってくるかどこかで食べる気がしたが、2個セットのショートケーキもカゴに入れた。
暇があれば曲を作る癖に流されても良かったが、今日明日くらいのんびりしようと借りていたDVDを再生した。雑誌片手に見ていたがあまり面白くない気がして消した。
なんだか集中できない。
今更、こんな気持ちになるなんて。
かわいいじゃん俺と少し客観視して、ベッドの上を離れた。冷蔵庫からもう1本あったビールに手を伸ばし、ついでに1個で十分だと思ったケーキも手に取った。2つも食べたら明日はいらない気もするがまあいいだろう。
部屋の時計が言うには、時間は0時回るところ。
ひとりで部屋でケーキ食べながら、0時になるタイミングを見ちゃうなんて何これと心の底から絶望しながら、ローソクさしてお祝いしてやろうかと思った。どうせ寂しいならカウントダウンしてやる。
10秒前。
9
8
7
6
5
4
ジャストに明が駆け込んできたらいいのにな、なんて思って酔った身体で必死に走る明を思い描いて笑った。無理無理。
3
2
1
カチリと針が動く音まで聴いてしまったかわいそうな俺。明は来ないし、間に合わなかった。当たり前だ今夜明は、来ない。
マメな友達から早速メールが届く。返さないことが多いのに、律儀に返信してやった。内容が入ってこないDVDをさっきの続きから再生して、ビール2本(しかも500ml)をあけたら少し頭がふわっとしてくる。もう寝ようと思った。明日の約束もしていないが、どうせ昼前にでも電話かけてくるんだろう。うん、それでいいや。
もう寒いので、ベッドにダイブで寝てはいけないとどうにか掛け布団にもぐりこんだ時に、自分の服がまだパジャマではなかったことに気づいたがもうそれもどうでも良かった。

明日、いや今日はすっごく高いものでもおごってもらおう。
 

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