忍者ブログ
801魂の修行中。
1  2  3  4  5  6  ->
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

竜太朗が12月になったことを失念して「もうすぐ師走」ってついーとしたとか、そんなくだらない話に大爆笑しながらの帰り道。とりあえず残すところは年末ライブくらいなもんで、今年も早かったなあと毎年思う通過儀礼のような気持ちになった。そりゃ気づいたらコートも着てるよね。一年なんて本当にあっという間で、20代は10代の半分、30代は20代の半分しかない…なんて言うけど、年が明けたら大台の俺はもう人生老い先短いなんて考えちゃうかも。でも隣で馬鹿笑いしてる長谷川さん(40歳男性)の揺れる金髪を見たら、そんな人生も悪くない気がしてきた。

今年ももう終わりだよねなんて、同じ通過儀礼をしてた長谷川さんは白い息を吐きながら言った。寒いのはまっぴらごめんだけど、冬の凛とした空気は嫌いじゃない。何となくあんたに似てるよと心の中だけで呟いて横を見ると、ポケットから取り出した自分の手をじっと見ている。働けど…ってやつ?そりゃ大して楽にはならざりだけどって言ってやろうと口を開いたところで、真っ赤な指を見てびっくりした。
ぱっくり。

「やばい、指が」

大して割れてないのかもしれないけど、冬の乾燥で血まで出てるしもうイヤこのひとベース弾きじゃないわけ!?

「指が、じゃないし!すげえささくれ?ひび割れ?わかんないけどやめて!」
「いや大丈夫ハンドクリーム持ってる」
「違うでしょーよ、それは予防でつけるもので割れてつけるもんじゃないし!」

こっちの手まで痛くなってきて、どうしてこういうとこズボラなのか理解できないまま、ハンカチで血を拭き取って、財布から絆創膏取り出して、長谷川さんの手に貼ってやった。甲斐甲斐しいねぇなんてもうガックリするようなことしか言われなくてどうしてやろうかと思ったら、さっき言ってたハンドクリームを取り出した長谷川さんは言った。

「このハンドクリーム変なにおいがする」
えーそれ薬用じゃんすーすーはするよ。と軽く返した後、ふと気になって手を引きよせてにおいを嗅いだ。…なんか、すごいくさいとか腐っているとかじゃないんだけどビッミョーなにおいが確かに。


「やっぱ一昨年のじゃだめかー」
ガックリ。

終いには、なかちゃん使っちゃってよもう少しで終わるからとくさいハンドクリームを塗ったくられて、腹立たしかったので手をつないで帰りました。どうせならと2人でにんにく食べるような気持ちだね!と言われてもう返す言葉もございませんでした。手じゃなくて心がひび割れですナカヤマでした。

PR


「『明』って文字は、太陽と月って意味だけじゃないんだって」


スタッフが持ってきた新聞を眺めながらタバコをふかしていたおじさんがこっちも向かずにつぶやくように言った。
いい加減スタジオにもスタジオの喫煙スペース(と言う名の入口だ)にも飽きてきた今日。いや今夜。ガラス張りの入口ドアから外をみるが、静かなものだった。目の前の小さなビルの中で、大音量音楽が流れているとは知らない人も多そうな目の前のマンションを眺める。夜というには深すぎる時間、もちろん誰も出てくる気配もない。

小学生から毎日毎日「日」と「月」を繰り返し書き続けた自分にすると、何を言うかと若干気になった。本当に独り言であることが多いから、あまり返事をしないのだが。

「他に意味があんの?」

うんー、と言ったまま相変わらず目は新聞から離さずに不明な返事。

新聞の上から少し出た金髪を眺めながら缶コーヒーを一口飲む。これ甘くないと思って買ったけど、意外と甘い。また買おうなんて思いながら続きを待った。

質素な椅子に座って新聞を広げていた正はそのまま新聞と一緒に段々ずり下がってついに椅子に横になる。少しつぶれた新聞をそのまま床に投げると、こちらに初めて目を向けた。蛍光灯の光が入りこんだ目がこっちを刺すように捕らえて、少しぞっとした。これ以上どこがとも思うのだがスタジオ篭もりをするとすぐに更に痩せる彼の目は、眠そうなんかじゃなかった。
獲物を見る様な目は、自分だけを見ているわけではないようで。

「月」

意味が分からず返事が出来ずにいると、指をさした。俺の顔の、うしろ。
振り向くが何もない。あぁもしやと、正と同じ位置まで顔を下げる。それはガラスの入口ドアの外。黄色く、まあるく。
満月より少し欠けたいびつな月だったが、随分高い位置から明るく照らしていた。


「窓から月を眺める、って意味もあるらしいよ」


もうこっちも窓も落とした新聞も見ていない正は、どこを見ているのか分からない。返事をしたかったが、そこには何も言葉がなかった。コーヒーも終わってしまった。


「いやいやいやいや来なくていいから!」
「行きたい行きたい!」

冬ツアーの北海道。
前後に日がなくて、ライブ終わったらすぐ移動が多かった最近。今回は月曜日に新潟から来て、北海道ライブは水曜日。終わって次の青森は土曜日。こんなに日があるのは珍しいから、実家にちょっとは顔出そうかななんてつぶやいたのが悪かった。いやつぶやいたのは悪くなかったんだけど、横で聞いてた長谷川さんが悪かった。

「久しぶりになかちゃんの実家行きたい」

んな千葉のモヤシに冬の阿寒は無理だって!言うほど狭くないのよ北海道!言うほど近くないのよ釧路は!!ていうかひとの実家についてきて一体何をしてくれようって言うの!!おかあさんをもてなすって意味分かって言ってんのもてなされて終わりのくせに!

「あ、見てみて阿寒の観光協会のホームページ」

話しを聞いているのかいや全く聞いていない正は、俺のノートパソコンで勝手に調べ始めた。【ICE・愛す・阿寒】キャンペーンだってちょううけるなかちゃんのセンスはこういうところで磨かれたんだねと大喜びする金髪を横目に、腕を組んでソファにもたれた。
ひえーマイナス15度だって、スキーも出来るんだ~、あぁタンチョウ鶴ね!とひとつひとつに、ひとり言なのか俺へのメッセージなのか分からない言葉をずっとぶつぶつ呟いてホームページを眺めている。

「あのさぁ正君」
「大丈夫だよ、行かないから」


さっきまでの行きたいコール、そして手元で阿寒の下調べをしながらという不自然なタイミングで、不自然な言葉が漏れた。来るなとずっと言っていたのに思わず俺も「行かないの?」と聞いてしまった。不自然だ。口元だけ笑って、顔はパソコンからそらさないまま小さな声で言った。


「なかちゃんのおかあさん孝行、邪魔できないよ」



こういう風に大人な対応をしてくる正が本当に好きだけど、本当に悔しい。どうして同い年なんかに生まれたんだろう。年上だったらもうちょっと素直に認められた部分もあっただろうに。ソファに座っている自分と、床に座る正の距離をどう詰めたものか考えながら、冷えた足で正の腕を軽く蹴った。きっとこの人は、一緒に来てくれない。もうこうなったら俺がどう誘ったって、美味しい海鮮の話しをしたって、降り注ぐ星空の話しをしたって、来てくれない。


「行かないの?」
「行かない」
「行こうよ」
「行かないよ」
「来てよ」
「行かないってば」



俺は寒い寒い北海道も地元も嫌いだけど、
あんたと手を繋いであの雪の中を転げまわるのは、悪くない気がしたのに。

「寒いしさ、もう帰りません?」


聞こえてるのか聞こえてないのか、特に返事も振り向きもないまま少し前を歩き続ける金髪後頭部を眺め、何度目かのため息をつく。人ごみという言葉がピッタリなここは新宿そして今日は12月23日祝日でおめでたいのはなぜかカップル、お前ら今日がなぜお休みで祝日であるか、そして明後日は一体誰の誕生日なのかを考えて出歩けって言うんですよまったく。伊勢丹の1Fをアクセサリー売り場に設定したやつハゲろとぶつぶつ呪いを寒い空気と一緒に吐きながら、人ごみに紛れて見失いそうな金髪を追う。こんな年末に新宿なんてどうかしてる。誘われて2秒で文句を言ったのに、林檎信者な相手は「なかちゃんのばかやろー伊勢丹の息があわさる衝突地点だよ!」と頑なに譲らなかった。アクセサリーが欲しいわけでもあるまいし、クリスマスプレゼントを今更送りあうわけでもないし、クリスマスデートなら家でいいじゃん何が目的だっての。駅を出たあたりではのんびり話しながら歩いていたが、段々並んで歩くのすら困難になってため息をついたあたりから、後ろを振り向かなくなった長谷川正。

せめて買い物の目的を教えて欲しいし、出来ればちょっと休憩に甘いものでも食べさせて欲しい。血糖値下がってきたし!捕獲すべく混雑の人並みをかきわける。気づいたわけでもないのに更に足を速める目標物に少しいらつく。少し早足になった瞬間、目の前に金髪がつっこんできた。どうやらカップルのでっかい彼氏にぶつかられたご様子。思わず縮まった距離に気まずそうな正を見て、ここを逃したらと手をつかんだ。いい加減にしてくださいよ。どうせ見えないんだからと人ごみに乗じて指を絡めてやる。人波に乗って歩きながら、他のいちゃついているおめでたいカップルと同じように後ろから抱きしめるようにすると、少しだけゆっくり歩くようになった。

「離してよ」

小声のお小言を聞こえなかったふりをしてそのまま歩き続ける。すっかり大人しくなった動物を撫でるような気持ちで、同じような小声で言った。

「なんで急に新宿とか言ったの」


無視を決めこむ正の冷え切って真っ赤な耳に思い切って言う。

「しかもこんな混雑したクリスマスに」


またしても振り返りもしない、繋いだ手に変化すらない目の前の人。でも正解だ間違いはない。


「クリスマスプレゼント買ってあげるから、帰ろ?」

そっとほんのり体重をかけてきた正を抱きしめるようにすると、ようやくこっちを見る。冷えた紫色の唇が動いた。え…?



「…人ごみに酔って気持ち悪……………」


あんたばかじゃないの!!!!!!!!???????
こればっかりは小声では済まなかった俺。メリークリスマス。

「あーお腹いっぱい!」
もう何なのこの人ホントだれかどうにかして!
クリスマスイブイブに大混雑新宿に無理矢理やってきたくせに、人ごみに酔って気持ち悪いとか、とりあえず休憩と入ったお店でお水飲んだら治っちゃってコーヒーケーキセット頼んじゃうとか、意味分かりません!朝から水分取ってなかったや、じゃないし!

数々のお小言と暴言が脳内ミックスされた俺だったが言いたいことが多すぎて口を開けたまま何も言葉にならなかった。苦し紛れにショコラとチーズケーキのコラボを堪能することにしたら、目の前の金髪がひょっとチーズケーキをひとかけ掠め取っていった。てめ。
俺、新しいコートが欲しいんだよね。俺のケーキをもぐもぐ租借しながら独り言か俺へのおねだりか分からないつぶやきが聞こえた。無視してやろうかと思ったけれどクリスマスもどうせリハだし、そういえば今までクリスマスプレゼントなんてあげたこともなかったから、冬の街に漂う幸せオーラにあてられた気分で買ってあげたって構わないぜ俺素敵!

再び人ごみの中に戻るが、今度はきちんと並んでくっついて歩いた。もう手は繋がせてくれなかったけど、お互いに居場所を確認するように人との間をすり抜けるとなんてことはない。安全安心。渋谷の店舗は良く行くんだけど、という俺とはちょっと傾向と対策が違うお店に到着する。メンズのお店だってのに、店内にはちらりほらりとカップルや女性の姿があって、あぁそうか今日プレゼント買ったりするのね世の中はと気づく。音楽に没頭するのはいいけど、こういう日常を案外見逃しているもんだなぁなんて思う自分は気づいたら相当年食ったもんで、まぁ目の前の同い年もそりゃ年を取るよねなんて洋服をうきうき眺めている正を盗み見る。行きつけかと思うように店員さんと仲良く話しをする姿を見て、なぜか急にクリスマスデートってやつかこれ!?と心臓がはねた。新宿待ち合わせして、ケーキ食べて、ショッピングして…王道!王道ですよこれ!と思ったら、まるで中学生のようにうきうきしてきた。今夜はちょっと素敵なレストランなんかで正の好きなワインでも飲みながらディナーをして、おうちに帰ってもいいしどこかホテル行っちゃってもいいし、ほらあれだほら!なんだかだって、久しぶりだもん!!

「なかちゃん!」

最高潮に盛り上がっていたクライマックスを遮る様に腰の辺りを叩かれた。聞いてなかったでしょ!あ、はいすみません全くもって聞いていませんでした。何かと覗き込めば見知らぬ黒いコートを着た正が目の前に居た。これと灰色どっちがいいと思う?と、まるでデートの続きを促されて良かった俺のクライマックスはまだ続いていたんだと安心する。あなた黒のコート持ってたんじゃないの、とかそれっぽいことを言ってやったらそうだよねぇなんて店員さんのところへひょいっと戻って行った。笑顔が気持ち悪くだだ漏れそうで口元をマフラーで隠す俺気持ち悪い。会計をするところで登場して「クリスマスプレゼントで買ってやるよ」と完璧なシチュエーションで言ったのに

「え、いいよなかちゃんこそ自分の服買いなよ」

違うだろそこはそうだとしても、じゃあ次はなかちゃんの服選んで俺が買ってあげるねでしょー!!!!俺が夢を見がちなのか、普段夢見がちな長谷川さんがおかしいのか分からなくなってきた。
なかちゃんも買うならどこか見る?と言われたものの、滅多に新宿なんて来ない俺には行く店も分からないので丁寧にお断りした。夕方もいい時間。めしでも、なんてディナーにお誘いして、うっかり空いてたホテルの見晴らしの良いレストランでワインを傾けながら1年を振り返ったりしてちょっとほろ酔いになった長谷川さんをタクシーで家に送りつつ、いやむしろそのまま空いているホテルの部屋でなんてのも悪くない俺お金持ってたっけいやいいこの際カードだって乱用してやる俺はクリスマスを堪能する!!


「ただしくん、めしでもぴぴぴぴぴぴ」

素敵な流れを分断するように流れる電子音にずっこけそうになりながら、気を取り直して相手を見ると「あーりゅうちゃんだー」じゃねえええええよ!!一世一代の大告白を邪魔されたような気持ちになりながら電話に出る正を見てると、さっきの服屋の話やら今日はクリスマスイブイブだって話しやらどーでもいいこと(俺的には)ばかりを話す。早く終わりにしませんかね…。じゃあまた、と電話を切った瞬間ご飯に誘う。逃さない、俺。ただしくんめしでも、ああいいねいいねー、じゃあどっかふたりでさぁ、え?
「ホラ、たまにはふたりでクリスマスディナーでも、とか…」
「あ、ひどいもしかして忘れてる!?」
「…え?」
「“新宿の”ドナドナ発売記念握手会に行ってる可愛い弟分たちを!」


…すっかりめっきり記憶にすらありませんでした。
くどくど長々怒られた後は仕事終わりの竜太朗とけんちゃんと合流し、素敵なクリスマスを過ごしました。ケーキも食べた。うん、甘くて美味しかった。ホント美味しかったよ。
おまえらも良い夢見ろよ!メリークリスマス!!!

カレンダー
04 2024/05 06
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新記事
(11/01)
(05/14)
(03/27)
(03/12)
(12/13)
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
QRコード
ブログ内検索
Powered by 忍者ブログ & [PR]