「ケンケンはいい子だよねぇ~」
「おでん」の文字を見つけて入った飲み屋。
既に20回は聞いた言葉の21回目を聞きながら、明はため息をついた。
明日早いと言う竜太朗は、すごい勢いで呑んですごい勢いで正の誕生日を祝ってすごい勢いで帰っていった。ケンケンは明日何もないので帰るかどうか悩んでいたが、相当面倒くさい存在に変貌してしまったリズム隊の先輩を見るに見かねて竜太朗が連れ帰った。そして残る俺。
現在15日23時。
正君せめて水飲んで水、と店員さんに貰ったお冷を出しても、手前にある水のようで水ではないおちょこに口をつける。一見ちゃんとしてるように見えるのがこの人の面倒くさいところだ。もっと酔って寝ちゃうとかごろにゃんしちゃうとか、可愛くなっちゃえばまだ面倒見てやっても良いのに、店員さんがくるとまるでしゃきっとしちゃって「あ、デザート下さい」なんて言いやがる。あんまり食べると気持ち悪くなるだろうに、もっと先に頼んでた俺のチョコレートパフェにかじりついた。しかもケーキみたいな一番美味しい部分。自分のが来るまで待ちなさいよ。
「ケンケンはいい子だよねぇ~」
「どの辺が?」
22回目にいい加減に聞き飽きた俺は、あえてその話題に乗ることにした。
何度も言っていたのに初めて返された話題に、丸い目を更に丸くしてこっちを見た。2秒後、きれいなアーモンドに変わったそれから少し目をそらした。自分のぬるくなったビールに口をつける。まずい。
『一生懸命で頑張り屋でちいさくてまっすぐで若くてかわいくて長崎弁で努力家で』
指折りながら数えて、折り方を間違った正の指はもう10本曲がっていた。だって今日だって明日誕生日ですよね!ってお風呂セットくれたんだよ泡あわになるやつ!あと今度「天使の恋」っていう映画一緒に行きましょうだって。おごってくれるそうだしー。
そりゃーそうね俺だって弟みたいに可愛がってるつもりだけどさ。
ホントいいこ、と満足そうな顔をした正の顔を眺めて、また不味いビールを呑んだ。
「一生懸命で頑張り屋でちいさくてちょっとまっすぐじゃないけど若くもかわいくもないけど努力家なあんたのことが、割と嫌いじゃないんですけど」
だからここ出てどっかでゆっくりしない?
続けた俺に失礼なくらい大笑いした正は、伝票を持ってさっさと立ち上がった。
ちょっと、いくら俺でもそのくらい払いますよ!!!
(ハッピーバースデー!!091116 ひさみ)
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