ピンポーーン。
ぬるくなったコーヒーを飲んだら、なんだか胃の中から冷えてきた。手も一向に温まらない。かじかむ手で呼び鈴を再び鳴らす。
ピンポーーーーーン。
うっそでしょまじ信じらんねえこの寒さの中俺を放置する気なのあの人はこれで死んだらどう責任取ってくれるのああどうしよう。多分わずか1分も経ってないのに寒さでおかしくなりそうで、とりあえず近くのコンビニに避難しようと背を向けた瞬間、家の中からまさに「どんがらがっしゃん!」という音がした。在宅だけは確認できたので、もう一度呼び鈴を鳴らすと、呼応するかのようにもう一度大きな音が響く。近所迷惑だよ長谷川さん…何大掃除するの引越し作業でもしてるの。
それから更に1分くらいして、ようやくドアが開いた。
「おまたせ」
待った待ったよと、中にようやく通してもらった。玄関は寒い。いち早く暖房の前で暖を取りたいと、家主を押して部屋へ…と思ったら居間の電気が消えている。え、何長谷川さん寝てたわけ、と言うといいから入ってといつのまにか後ろに控えた彼に背を押されて入る。
ハッピバースデー トゥーユー♪
ちょっと高い鼻から抜ける声で後ろからひとり歌を歌ってくれてああもしやこれはと思うと、部屋の真中には小さなホールケーキに細くて長かっただろうろうそくがささって煌々としていた。律儀に全部歌い終わる頃にはわずか1.5cmになったろうそく。
ささっ吹き消して中ちゃん、と促されて火を消、そうと思ったら足元に落ちていた何かにつまずく。危うくケーキに顔面キスかましてパイ投げ状態になるところだった。体勢を崩したのでそのまま膝をつくと、少しゲル状のものに触ったがこの際気にしないことにする。
早めにすべきは火を消すことだ。
ふうっと8本のろうそく(こういうところ律儀でどうかと思う)を消すと、ぱちぱちとたった一人から拍手を貰った。寒さと部屋の汚さに邪魔されそうだけど、こういうイベントや演出が好きな彼らしかった。
ろうそくの火が消えて真っ暗になった部屋で、お礼を言おうと振り向くが彼はそこにはいない。代わりに寝室からまたしてもドッカンドッカン音がする。なんなの、もうちょっと雰囲気とかロマンチックとかそういうもの、大事にしましょうよ…。
ようやく目が慣れてきて、大きな包みを抱えた長谷川さんが見える。ああ寝室にプレゼントがあったわけねていうか寝室くらい電気つけて探したらよかったじゃない。
「はーいなかちゃんお誕生日おめでとー!」
まるで小さい子のように、プレゼントを前で抱えて本人が見え隠れする様にかわいいと思っちゃうあたりもう俺も大概なんだと思う。はいはいありがとー、と受け取ろうとすると前が見えない正が転んだ。とっさに受け止めると、プレゼントがクッションになってふたりもつれこむように倒れた。足元にはケーキを入れてあったと思われる箱。単純すぎる。
思ったより近かった顔にキスをすると、嬉しそうに笑ってプレゼントを差し出してきた。大きくて柔らかい感じが、包みの上からでも分かる。
「なかちゃん、ソファに置くクッション欲しがってたでしょ?」
珍しく欲しいものをくれたのねと喜んで開けた。
お寺でしか見たことのないような、高そうな
座 布 団 が2枚包まれていました。
…NO!!!!
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