「寒いしさ、もう帰りません?」
聞こえてるのか聞こえてないのか、特に返事も振り向きもないまま少し前を歩き続ける金髪後頭部を眺め、何度目かのため息をつく。人ごみという言葉がピッタリなここは新宿そして今日は12月23日祝日でおめでたいのはなぜかカップル、お前ら今日がなぜお休みで祝日であるか、そして明後日は一体誰の誕生日なのかを考えて出歩けって言うんですよまったく。伊勢丹の1Fをアクセサリー売り場に設定したやつハゲろとぶつぶつ呪いを寒い空気と一緒に吐きながら、人ごみに紛れて見失いそうな金髪を追う。こんな年末に新宿なんてどうかしてる。誘われて2秒で文句を言ったのに、林檎信者な相手は「なかちゃんのばかやろー伊勢丹の息があわさる衝突地点だよ!」と頑なに譲らなかった。アクセサリーが欲しいわけでもあるまいし、クリスマスプレゼントを今更送りあうわけでもないし、クリスマスデートなら家でいいじゃん何が目的だっての。駅を出たあたりではのんびり話しながら歩いていたが、段々並んで歩くのすら困難になってため息をついたあたりから、後ろを振り向かなくなった長谷川正。
せめて買い物の目的を教えて欲しいし、出来ればちょっと休憩に甘いものでも食べさせて欲しい。血糖値下がってきたし!捕獲すべく混雑の人並みをかきわける。気づいたわけでもないのに更に足を速める目標物に少しいらつく。少し早足になった瞬間、目の前に金髪がつっこんできた。どうやらカップルのでっかい彼氏にぶつかられたご様子。思わず縮まった距離に気まずそうな正を見て、ここを逃したらと手をつかんだ。いい加減にしてくださいよ。どうせ見えないんだからと人ごみに乗じて指を絡めてやる。人波に乗って歩きながら、他のいちゃついているおめでたいカップルと同じように後ろから抱きしめるようにすると、少しだけゆっくり歩くようになった。
「離してよ」
小声のお小言を聞こえなかったふりをしてそのまま歩き続ける。すっかり大人しくなった動物を撫でるような気持ちで、同じような小声で言った。
「なんで急に新宿とか言ったの」
無視を決めこむ正の冷え切って真っ赤な耳に思い切って言う。
「しかもこんな混雑したクリスマスに」
またしても振り返りもしない、繋いだ手に変化すらない目の前の人。でも正解だ間違いはない。
「クリスマスプレゼント買ってあげるから、帰ろ?」
そっとほんのり体重をかけてきた正を抱きしめるようにすると、ようやくこっちを見る。冷えた紫色の唇が動いた。え…?
「…人ごみに酔って気持ち悪……………」
あんたばかじゃないの!!!!!!!!???????
こればっかりは小声では済まなかった俺。メリークリスマス。
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