「ねえねえ俺たちさあ、遠距離恋愛できると思う?」
ちょっと離れたところにはスタッフもメンバーもいるってのに、この人は一体何者なんですか今日はデレの日なんですかそうですか。事務所から貰ってきたという紙コップに入った不味そうなコーヒーを啜りながらまるで今日の天気のように呟く金髪に、思わずツッコミを入れてしまうところだった。危ない危ない。吹かれたり吐かれたりしても、それはそれで面倒なものです。俺はさっき事務所の下の自販で買った缶コーヒーをやっぱり同じように啜って、少し呼吸を整えながらチラリと横の人を見た。目が合う。アーモンド型とよく称される目がにっこり笑って今度はさっきより小声で言った。
「出来るかなあ?」
一体何なのこの年になって急に親の都合で引越ししますって訳でもあるまいし(ていうか一人暮らしじゃん!)それとも急にどこか行きたくなっちゃったのそういうのはありぽんにでも任せて旅にでも出させれば良いじゃない、と、言ったら目の前の彼に流石に怒られそうなことを思いながら、少しハラハラしてきた。こっちの気持ちなんてお構いなしにまたも「出来るかなあ」と繰り返した彼の表情に、たかが妄想の域だと知る。なんだ。
そう言われて冷静になった心で、遠距離恋愛とやらを考えてみる。毎日電話したり、今日あったことを報告したり、久しぶりに会って盛り上がったり。そういえば俺今までそういう恋愛したことないな。だってこの人、家族より親兄弟よりよっぽど近くにいつも居て、それがそりゃ十何年も続こうものなら、想像すら出来ないのなんて当たり前なわけで。一般企業でもそうだとは聞くけれど、やっぱりこの業界は何泊も一緒にいることもあるし移動も徹夜もどこまでも一緒にいることは多い。…うーん。
「出来ないかも」
自分で聞いたくせに、そういった俺の言葉にアーモンドが隠れるくらいの笑顔を向けた。あんたがデレなら俺だってデレる日あるんですよ。
「俺と結婚したなかちゃんはギターを弾かなくなっちゃって、神様に怒られて1年に1回しか会えなくなっちゃうとか、結構辛くないー?」
…え、ああ、もしかしなくても今夜は七夕。俺、織姫。おりひ……………。
「ギター、ちゃんと弾きます」
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