マンションの自動ドアが開くと、寒いなんてものじゃない刺すような風が服と肌の間をすり抜ける。思わずコートの襟に亀のように首を縮めながら、何だこんなの天気予報で言ってなかったじゃないよと口を開けずに喋った。年末年始は帰らなかったけど、実家の方は酷いことになっているんだろうと冬は正直あまり行きたくない遠い阿寒湖を思った。
知らないから言えるのだろうが、あの人この間「なかちゃんの実家に冬行きたい」とかばかなことを言っていた。いつかふたりで行きたいね、なんて歌えないわよ俺。あのバンドの人たち北海道出身だけど確か函館…阿寒湖とは寒さも雪も違うし。慣れてない彼も、昔は慣れていた俺も、風邪ひくのが目に見えている。
ツアーでもまた何故か冬に北海道になっちゃったけれど、どうせなら夏に涼みに行く方が北海道は良いと思うわ俺。ツアー後ちょっと実家に顔出そうと思ったけど東京でもこの寒さだと思うと、げんなりする。やめよっかな…。
早くもくじけそうになる心を叱咤して、前へと足を踏み出した。歩き出したって寒いものは寒い。家から数十メートルのコンビニに早くも避難した。少しでも暖を取るように缶コーヒー“あったか~い”を、顔やら手につけてぬくもりを奪う。どうして車にしなかったのか後悔したものの、酒が呑めなくなるのは嫌だしそれで帰れなくなるのも嫌だった。明日の仕事に影響する。
普段徒歩で15分の距離が、恐ろしく遠く感じた。
頑張れナカヤマ踏ん張れナカヤマと、自分を応援しながら進み、見慣れたマンションにようやく到着した。エレベーターの暖かさとともに、飲んでないのに冷えた缶コーヒーを開けて、ぬるさを味わう。このミルクコーヒー、いまいち。
ああ神様、どうかあの人が部屋を片付けて暖房で暖めてくれますように!
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